公益財団法人 本間美術館は、「公益」の精神を今に伝え、近世の古美術から現代美術、別荘「清遠閣」の緻密な木造建築の美、「鶴舞園」、さらには北前船の残した湊町酒田の歴史まで楽しめる芸術・自然・歴史の融合した別天地。

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コラム

公益財団法人 本間美術館 [山形県 酒田市] > コラム > 2017年

若き激情の画家 小野幸吉 #5

学芸員:阿部 誠司

酒田を代表する表現者、画家・小野幸吉。
20歳10ヶ月で夭折するまでに約50点の作品を描きました。
そのどれもが今もまだ生々しく、観る者の心を激しく揺さぶります。

開催中の企画展「若き激情の画家 小野幸吉」では40点の作品を展示しています。
このコラムは、展示作品を紹介しながら小野幸吉についてお話する第5回目です。

 

 

小野幸吉 没後の動き

昭和5年(193018日、幸吉は腎血兼脳血栓という病名のもと2010ヶ月で息を引き取りました。

この年、幸吉が属していた一九三〇年協会の展覧会に、
幸吉の遺作≪背広の自画像≫≪帽子をかぶる男≫≪ランプのある静物(A)≫の3点が黒いリボンを添えて特別出品されました。

 ≪背広の自画像≫ 昭和2年(1927)18歳 個人蔵

 ≪帽子をかぶる男≫ 昭和4年(1929)20歳 個人蔵

 ≪ランプのある静物(A)≫ 昭和4年(1929)20歳 個人蔵

 

その後、遺作のほとんどが生家である小野家の酒蔵に納まりました。

そんな幸吉の作品をみて、遺作集を出版することを思い立ったのが、
後に本間美術館の三代目館長となる佐藤三郎氏です。

実は、この連載コラムに登場する幸吉の友人とは佐藤三郎氏の事で、
三郎氏は酒田中学時代から幸吉と一緒に絵を描いていた親友だったのです。

三郎氏は、当時美術評論家として高名であり幸吉とも親交のあった外山卯三郎氏に監修をお願いしました。
外山氏は幸吉の絵もさることながら、詩も高く評価していたと言います。
昭和7年に完成した『小野幸吉遺作画集』には、幸吉と親交のあった
高間惣七氏、白井喬二氏、里見勝蔵氏、林武氏、堀田清治氏、大野五郎氏、峰村リツ子氏、中間冊夫氏らの
追悼文が寄せられています。

 

やがて戦中・戦後と、幸吉の作品はひっそりと眠ったまま時を過ごします。

昭和22年(1947)に本間美術館が開館すると、
昭和36年(1961)6月、小野幸吉没後30年の回顧展を開催しました。
30年の時を経ても色あせない強烈な色彩と筆力に、人々は驚いたと言います。

昭和40年(1970)に再び回顧展を開催。
この時、作品の保存を考えて本間美術館で保管することが決まりました。

以後、昭和61年(1986)、平成7年(1995)、平成14年(2002)、平成19年(2007)、
平成21年(2009)※生誕100年記念、平成29年(2017)と展覧会を開催し、小野幸吉の芸術を紹介しています。

 

昭和50年頃には、現代画廊の洲之内徹氏がたびたび本間美術館を訪れており、
小野幸吉の作品をみて衝撃を受けたと言います。

洲之内氏は、画面にみなぎる「正直で率直な魂と、芸術と人生への無垢な信仰」が、最近の美術に感じていた渇きを癒し、絵に対する信頼感のようなものを甦らせてくれたと述べています。
昭和51年(1976)7月号と翌年の7月号の『芸術新潮―気まぐれ美術館』では、
幸吉の作品を添えて紹介されました。

昭和52年(1977)には、銀座の現代画廊で「小野幸吉遺作油絵展」(4/11~30)が開催。
遺族や友人が集まり、生前の思い出を語り合ったと言います。

 

最後に小野幸吉が大きく取り上げられたのは、昭和55年(1980)。
NHK山形放送局で「庄内のゴッホ―小野幸吉没後50年」が制作され、
洲之内徹氏を始め、大野五郎氏や佐藤三郎氏、戸田みつき氏(幸吉の親戚で画家)が
小野幸吉の芸術を語り合う内容が東北各局で放送され、大きな反響を呼んでいます。

 

小野幸吉が亡くなってから87年となり、直接当時を知る人もいなくなりました。
酒田では静養し絵ばかりを描いていた幸吉ですが、
東京に出ている間は八丈島や大島、関西方面へと、病を抱えていたとは思えないほど精力的に行動しています。
そういった足跡や東京での暮らしぶりなどの話も、整理しておかなければならない時期でしょう。
同時に、昔は難しかった作品のクリーニングや修復を行い、現代の技術で長期保存に耐え得る状態にしなければならない時期でもあります。

現代画廊の洲之内徹氏は、小野幸吉が没後も埋もれることなく
こうして作品を観ることが出来るのは地域の努力があったからだと言っています。
酒田を代表する表現者、画家 小野幸吉は、当地にとって後にも先にも唯一無二の存在と言えるでしょう。
ぜひ、多くの方に小野幸吉の芸術をご覧頂き、その感動を伝え拡散して頂ければ幸いです。

 

 

 

2017.02.12