Homma Museum of Art芸術・自然・歴史の融合/公益財団法人 本間美術館
コラム
若き激情の画家 小野幸吉 #3
学芸員:阿部 誠司
酒田を代表する表現者、画家・小野幸吉。
20歳10ヶ月で夭折するまでに約50点の作品を描きました。
そのどれもが今もまだ生々しく、観る者の心を激しく揺さぶります。
開催中の企画展「若き激情の画家 小野幸吉」では40点の作品を展示しています。
このコラムは、展示作品を紹介しながら小野幸吉についてお話する第3回目です。
才能の開花
大正14年(1925)16歳で上京した小野幸吉は、
太平洋画会研究所や川端画学校に通い、本格的な絵の指導を受けました。
川端画学校では、大野五郎(のちに主体美術協会を結成する洋画家)と知り合いになっています。
そして、昭和3年(1928)19歳になると、設立されたばかりの一九三〇年協会の研究所で学ぶようになります。
洋画家の里見勝蔵や林武、前田寛治などの指導を受けながら、
大野五郎をはじめ、中間冊夫や峰村リツ子ら画友たちと切磋琢磨の日々を送りました。
驚いた事に、幸吉と大野五郎は一枚の絵を二人で描く「共作」をしていたことも伝わっています。
この時の幸吉の様子を里見勝蔵は『この頃の小野君はいよいよ芸術家の生活に入り、作品もいよいよ小野式にすばらしく進展した』と述べています。
それと同時に、制作を急ぐ態度が見られたことに、健康をかえりみず死に急いだ生活だったと回想しています。
≪Oの顔≫ 昭和3年(1928)19歳 個人蔵 ≪自画像(A)≫ 昭和3年(1928)19歳 個人蔵
≪裸婦≫ 昭和3年(1928)19歳 個人蔵 ≪たそがれの家≫ 昭和3年(1928)19歳 個人蔵
この頃、激しい表現と鮮烈な色彩のフォービズムとの出会いがあり、
幸吉の激情的な若い感性は研ぎ澄まされ、その才能を開花させたのでした。
≪赤い家(A)≫ ※3点とも、昭和3年(1928)19歳 個人蔵
そしてこの年に、一九三〇年協会3回展に初入選を果たしました。
画家としての一歩を踏み出す
昭和4年(1929)20歳になった幸吉は、一九三〇年協会4回展、槐樹社展に入選。
そして国際美術展では、≪花と椅子≫が入選するなど、新進気鋭の画家として頭角を現していきます。
一方で、制作中心の不規則な生活は、しだいに幸吉の体力を奪っていきました。
東京では、瀧の川、代々木、中野と下宿先を転々と変え暮らしていたことが分かっています。
実家の母から仕送りもありましたが、ほとんどを絵の具代に費やし、生活は苦しかったようです。
体調がすぐれなくなると帰郷し体力を養い、
母から絵の具代をもらっては上京するような事を繰り返していました。
≪駅頭≫ 昭和4年(1929)20歳 個人蔵 ≪王子風景≫ 昭和4年(1929)20歳 個人蔵
この年の7月、徴兵検査のため一時帰郷。
丙種国民兵(健康上の理由から一応の合格、すぐに出征する必要はない)となった小野は祝杯をあげました。
これは絵を描く時間が確約されたことへの喜びだったでしょう。
また東京へ戻った幸吉は、さらに精力的に制作に没頭しています。
≪帽子をかぶる男≫ 昭和4年(1929)20歳 個人蔵 ≪肖像≫ 昭和4年(1929)20歳 個人蔵
≪大島風景≫ 昭和4年(1929)20歳 個人蔵 ≪ハブの港≫ 昭和4年(1929)20歳 個人蔵
≪中間冊夫像≫ 昭和4年(1929)20歳 個人蔵 ≪Aの顔≫ 昭和4年(1929)20歳 個人蔵
そしてついに、幸吉の画家としての第一歩となる大きな受賞を果たします。
≪花≫と≪ランプのある静物(B)≫の2点が第26回二科展に入選したのです。
新しい時代の絵画を評価する二科展での入選は、幸吉にとって大きな喜びと自信になったことでしょう。
この時の幸吉は、酒田の図書館で自分の新聞記事を探しては、地方での自分への批評を気にしているようだったと言います。
友人は賛辞だけではなく嘲笑など全ての批評を伝えましたが、小野は絶えずそれを笑顔で聞いていました。
つづく…
2017.01.28
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