Homma Museum of Art芸術・自然・歴史の融合/公益財団法人 本間美術館
コラム
古文書の見方②【紙の種類】
学芸員:須藤 崇
第1回目では【紙の形】に注目し、紙の形として竪紙・折紙・切紙(横切紙・竪切紙)があることを解説しましたが、第2回目は【紙の種類】について解説します。
【紙の種類 ―楮紙と斐紙―】に注目!
古文書に使われた紙の原料は植物で、主に楮(こうぞ)を原料とする「楮紙(ちょし)」と、雁皮(がんぴ)を原料とする「斐紙(ひし)」(「雁皮紙(がんぴし)」とも)がありました。
※他にも、ミツマタを原料とした「三椏紙(みつまたし)」がありますが、ここでは楮紙と斐紙についてご紹介します。
●楮紙の特徴
①光沢がなく、柔らかい質感。※紙が叩かれて光沢が出るのもある(打紙という)。
②墨が滲みやすい。
③紙を作った際の簀の目が見えやすい。
※楮は生育しやすいので、三椏とともに栽培されて和紙の原料とされていました。
■作品例
酒田市指定文化財
奥羽古文書《上杉景勝書状 本庄越前守宛》(天正12年/1584)6月27日 館蔵
上杉景勝(1556~1623)が、越後国(新潟県)の本庄城主・本庄繁長に宛てた書状です。信濃の情勢、勅使の来訪、羽柴秀吉との関係、関東及び越中の情勢、最後に新発田重家の乱と、景勝の置かれた状況全般について書かれています。
表面に光沢は無く、折り目の間に簀の目がうっすらと確認できます。巻子装にされているため、柔らかさや繊維の太さを測定することは難しいですが、楮紙系統の紙と見られます。
●斐紙の特徴
①光沢があり、滑らかな手触りで、硬く、パリッとした質感。
②墨乗りがよく、にじみが少ない。
→乾き切る前に折られた場合、花押や印判、文字などの墨移りが残りやすい。
③簀の目が見えにくい。
※雁皮は生育が遅く、栽培には適さないため、通常は野生のものが使われます。
■作品例
《前田慶次利貞書状》(年未詳)11月29日 館蔵
前田慶次(1533、41?~1605?)の自筆書状と考えられています。宛名は欠いていますが、江戸より病気の見舞いとして贈ってもらった「塩辛」と「みかん」に対する礼状です。晩年は腹痛におかされていて寝たきりでしたが、薬のおかげで歩くことができるようになったとも書かれています。書留文言が「恐惶謹言(きょうこうきんげん)」(通常は「恐々謹言」)であることから、ある程度身分のある人物だと考えれます。
表面には光沢があり、簀の目が確認できません。墨乗りもよく、にじみも少なく、斐紙系統の紙と見られます。
※紙の種類には、混合紙や再生紙なども存在するので、紙の正確な判定には顕微鏡等を用いる必要があります。
次回は「署名の書き方」について解説します。
2018.01.26
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