Homma Museum of Art芸術・自然・歴史の融合/公益財団法人 本間美術館
コラム
初夏・梅雨の時季に飾りたい絵画
学芸員:阿部 誠司
古来より私たち日本人は、涼しさを求めて暮らしの中に様々な工夫を凝らしてきました。
特に絵画や工芸は、機能だけではなく目で涼しさ感じられる「涼の美」として楽しまれ、芸術性の高い作品が数多く生み出されています。
今回は、開催中の展覧会「夏の絵画と工芸展」から、ちょうど今の時季に鑑賞してもらいたい作品をご紹介します。
まず、少し季節は戻りますが初夏の絵画。
ホトトギスは夏を告げる鳥として、古来より歌や絵画などの題材になってきました(秋もあり)。
夜に鳴く鳥としても知られ、この作品の様に月と一緒に描かれることが多いですね。
作者の鳴門(?~1840)は、江戸の鈴木芙蓉の内弟子から養子となり、後に阿波・徳島藩の絵師となりました。
山水や人物画にすぐれ、詩文をよくしています。
昔から美しい女性のことを、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と言います。
芍薬は夏の始まりに、すらりと伸びた茎の先端に美しい花を咲かせます。
その香りも穏やかで、まさに姿も香りも、すらっとした美しい女性のような花です。
作者は、本名を岩瀬忠震(1818~1861)は、将軍家旗本・設楽貞丈の三男として生まれ、後に岩瀬忠正の養子となりました。幕末の幕臣・外交官で、日米修好通商条約に著名するなど、開国に積極的だったことで知られています。瑞々しく伸びやかな、素敵な絵を描きますね。
この作品は扇面画と言って、扇子に描いた作品です。
扇子は小品であることから、昔から比較的購入しやすい絵身近な絵画でした。
涼とともに、季節感のある絵柄を手にして楽しんだのでしょう。
睡蓮の咲く水辺で舟遊びをする人物が描かれています。風にゆれる柳の葉も涼し気ですね。
作者の竹渓(1816~1867)は、文人画家である中林竹洞の長男です。
才気に富んだ竹渓は若い頃から高く評価され、父とともに当時を代表する画家となりました。
ここまで初夏の訪れを告げる動植物の作品をみてきました。
続きましては、梅雨、梅雨明けの頃に飾りたい作品をご紹介します。
夏の山を描いた山水画ですが、山肌や樹々の輪郭は滲んでぼやけていますね。
日差したっぷりの夏というよりは、雨あがり、または雨が降っているような景色に見えてきませんか。
瑞々しい山水は烏洲の得意分野なのですが、この作品も肌にまとわりつくような湿度を感じます。
作者の烏洲は、幼少期に南画家の春木南湖に手ほどきを受け、江戸に上り谷文晁に入門しました。
晩年は、勤皇家として江戸幕府から嫌疑を受け、日光晃山に隠れ棲んでいます。
「夏雨新霽」とは、夏の雨があがって空がすっきりと晴れることを意味し、それを蕪村が淡彩略画の伸びやかな筆致で表現しています。
画面が日焼けしており、本来の色調や、晴れた空のイメージが掴みにくくなっていますが、
雨に濡れ重くなった木の枝や建物の屋根、空が晴れて遠くに煙る山々の姿が現れ始める…そんな情景が思い浮かばれます。
俳人として知られる作者の蕪村(1716~1783)ですが、絵画の分野でも池大雅との競作『十便十宜図』(国宝)を仕上げるなど、大雅とともに南画の双璧として高く評価されています。
いかがでしたか。
私たちの生活様式が大きく変わってから100年以上たち、こうした絵画や工芸などの調度で季節を感じ、彩る文化は縮小しています。しかし、改めて鑑賞すると、こんな絵があったら日々の生活が少し豊かになるかな…と思える心は受け継がれているのではないでしょうか。
家で過ごす時間が増えた昨今、高価な美術品でなくても良いので、夏を感じる、涼を感じるもので部屋を飾ってみてはいかがでしょうか。
2020.07.11
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