Homma Museum of Art芸術・自然・歴史の融合/公益財団法人 本間美術館
コラム
江戸時代の虎の絵
学芸員:須藤 崇
江戸時代の動物を題材とした絵画、いわゆる動物絵画の主要画題に「虎」があります。
日本には生きた野生の虎はおらず、江戸時代を通じてほとんどの人々が実物の虎を見ることができませんでした。そのため、日本では中国や朝鮮から輸入された虎の絵を参考にしたり、虎によく似た身近な動物である猫をモデルとして描かれたといわれています。画家たちにとって、中国や朝鮮の絵を通して見る虎は、さぞ魅力的な動物に見えたことでしょう。竹林の中を歩いたり、龍と対になって描かれる勇猛な姿、四睡図のような愛らしい姿などは、画家の実物の虎に対する追求心を掻き立てるものだったと思われます。18世紀の虎描きの名手とされる円山応挙は、本物の虎の毛皮を入手して寸法を測り、実物大の毛皮の写生図(《虎皮写生図》当館蔵)を描き、19世紀の虎描きの名手とされる岸駒は、毛皮のほかに虎の頭骨や4本の足の骨を入手して、応挙以上にリアルな虎の絵を追求して描いていました。
現在開催中の企画展「親子で楽しむミュージアム 絵の中の動物たち」では、江戸時代の画家が描いた虎の絵を3点展示しています。3人の画家は、同時代の比較的近い時期に活躍していましたが、それぞれの絵を比較して見てみるとその違いがわかるのではないでしょうか。
1.狩野了承《虎図》 江戸時代後期 酒田市立資料館蔵
縦長の画面に入りきらない虎の姿を描いた絵です。片足を前に出す姿は古くからのスタイルで、狩野派の絵によく見られるものです。耳は猫の耳をもとにして描かれています。
狩野了承(1768~1846)は、酒田出身の狩野派の画家で、表絵師の深川水場狩野家の当主。
2.岸駒《猛虎図》 江戸時代後期 酒田市指定文化財 本間美術館蔵
縦1メートル39センチ、横2メートル22センチの大画面に描かれた大きな虎の絵です。波濤と老松に迫真的な虎の姿を描いた本図は、リアリティーが画面全体に押し出されています。本物の虎を描きたいという岸駒(1749?~1838)の追求心から生まれた大作です。
3.長沢芦雪《四睡図》 寛政年間後期 酒田市指定文化財 本間美術館蔵
一匹の虎と豊干禅師に、弟子の寒山と拾得の三人が寝ている姿を描いた「四睡図」と呼ばれる絵です。虎は気持ちよさそうな寝顔で描かれており、後ろ足を上げている姿が愛らしく感じてしまいます。自由奔放なスタイルで魅力的な作品を描いた長沢芦雪(1754~1799)らしい作品です。
展覧会は8月26日まで開催しています。この機会に、動物絵画の面白さに触れてみてはいかがでしょうか?
2019.07.30
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