Homma Museum of Art芸術・自然・歴史の融合/公益財団法人 本間美術館
コラム
series:戦没画家 岡部敏也の芸術 3/4
学芸員:阿部 誠司
約20年ぶりの展覧会で再注目されている岡部敏也。
彼の人生と、生そのものであった作品についてご紹介するシリーズです。
第3部:戦地へ。最期に遺した美術と故郷への想い
昭和18年9月、画家としての将来を嘱望されていた岡部敏也でしたが、徴兵により繰り上げで卒業となり、同年10月に山形連隊に入隊します。
10月30日には出征の壮行会が自宅で開かれました。
「美」という文字への想いを綴った色紙はその時に書いたものです。
親しくしていた原田家の八郎さんの顔も即興で描いており、
「酔って描いたので、戦争から帰ったら描き直すから」と話していたそうです。
また、女性の後ろ姿を描いた作品が一点あります。
これは、敏也の母親が自宅で開いていた日本刺繍の教室に通う女性で、敏也の婚約者と言われています。
あまり知られていませんが、敏也には結婚を誓い合った女性がいました。
20歳以降の作品、特に晩年の人物画には、この女性の存在が見え隠れしています。
画家としてまっしぐらに己の道を突き進んだ敏也ですが、
私たちと同じように青春があり、一人の青年の姿を見せることもあったのでしょう。
入隊前に敏也は女性に「3年待ってほしい」と告げたそうです…
出征した敏也は、部隊長に絵の才能が認められ、実家から送られた絵の具で絵を描き続けました。
満足な道具もなく作品と呼べるような制作はできませんでしたが、
それでも描きたくて描きたくて仕方がなかったのでしょう。
そんな戦地での敏也の絵が奇跡的に帰ってきたのが、画帖《戦塵》です。
この画帖≪戦塵≫は、もとは御朱印帖であったと思われます。
画中には「昭和二十年一月九日 岡部敏也 戯画ヲ綴ル」とあり、
部隊長が沖縄へ転属を命じられた際に別れの記念として、敏也が部隊長に贈りました。
前半は満州での生活を伺わせるものになっており、部隊長と思われる人物も描かれています。
後半には鳥海山を描き、満州で見る山を隊員それぞれが故郷に山に例えていると記し、
それは敏也にとって鳥海山であることも言っています。
故郷を懐かしんでか婚約者を想ってか、何度も描いてきた庄内の女性の姿を描きますが、
最後には満州の風景、現実を描いているのが印象的です。
終戦後、部隊長は供養のためこの画帖を持って御朱印を集めて回りました。
そして平成10年頃、画帖は部隊長の手によって岡部家へ届けられています。
岡部敏也は終戦を満州で迎えますが、その後の混乱で8月26日に満州で亡くなりました。
その最期も遺骨も伝わっていません。
岡部敏也 没後の動き
昭和49年(1974) NHK総合テレビ、文化展望『祈りの画集』に収録。放映される。
昭和51年(1976) NHKテレビ東北総局制作、『画家岡部敏也の生涯…絵筆は折られた』が放映される。
昭和52年(1977) 画集『祈りの画集』(日本放送出版協会)に掲載される。
本間美術館で「戦没画学生 岡部敏也遺作展」を開催。
昭和53年(1978) 東京・銀座、東京セントラル美術館での「青春の墓標-戦没画学生の遺作展」に出品。
平成元年 (1989) 大阪・大丸心斎橋店での「学徒動員の戦争展」に出品。
平成9年 (1997) 本間美術館で「岡部敏也 日本画展 -25歳のまなざし-」を開催。
平成12年(1999) 山形市・悠創館で、無言館収蔵作品による「戦没画学生 祈りの絵」展を開催。
《冬(角巻)》他を特別出品。
平成13年(2000) 羽黒町・いでは文化記念館で「郷土の人 芳賀準録と山形の戦没画学生展」に、
《冬(角巻)》《出陣》他を出品。
平成19年(2007) 月刊タウン情報誌『SPOON』9月号で、特集「画家、岡部敏也の青春」。
平成21年(2009) 鶴岡こぴあホール、山形美術館を会場に「戦没画学生遺作展 祈りの絵展」を開催。
《知秋》《冬(角巻)》《出陣》《砂丘》他を特別出品。
山形平和劇場第24回公演にて、朗読・演劇「戦没画学生 岡部敏也の物語」を上演。
平成22年(2010) 酒田市美術館で「戦没画学生遺作展 無言館 祈りの絵展」を開催。
《知秋》《冬(角巻)》《出陣》《砂丘》他を特別出品。
平成27年(2015) 酒田市立資料館で「戦後70年 戦時下の青春」を開催。
「戦没画学生 岡部敏也」として《出陣》や《戦塵》他資料を紹介。
平成28年(2016) 本間美術館で「戦没画家 岡部敏也-天才が遺した25年-」を開催。
2016.08.17
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