Homma Museum of Art芸術・自然・歴史の融合/公益財団法人 本間美術館
コラム
結縁灌頂に用いられた「両界曼荼羅図」
学芸員:阿部 誠司
開催中の展覧会「祈りの芸術」より、酒田・龍厳寺に伝わる≪両界曼荼羅図≫をご紹介します。
この曼荼羅図は、2011年に東北芸術工科大学によって修復されおり、その際に文明四年(1472)以前に制作されたことが分かっています。
龍厳寺では、古くよりこの両界曼荼羅を檀家や信徒が仏と縁を結ぶ(仏の慈悲に触れ、智慧を授かる)儀式「結縁灌頂(けちえんかんじょう)」に用いられてきました。
心身を清められた信者は実際に曼荼羅の上を歩き、そこで華を投じ、華の落ちた場所の仏と縁を結んだと言います。
この曼荼羅の中心部が上下に擦れているのは、長い年月の間に多くの信者が曼荼羅の上を歩き、結縁灌頂を行ってきたことを物語っています。
現在、龍厳寺で結縁灌頂は行われておりませんが、総本山智積院では年に一度行われています。
では、両界曼荼羅図について詳しくみていきましょう。
両界曼荼羅図とは…
真言宗の多くの寺院では、本尊に向かって右に「胎蔵曼荼羅(たいぞうまんだら)」、左に「金剛界曼荼羅(こんごうかいまんだら)」を祀り、これらを「両界曼荼羅」と呼びます。
胎蔵曼荼羅は大日経の教えを図示し、仏の慈悲の世界を表しています。
また、金剛界曼荼羅は金剛頂経の世界を図示し、仏の智慧を表しています。
金剛界曼荼羅について
金剛界曼荼羅の基となる金剛頂経は、十八会(じゅうはちえ)と呼ばれる、大日如来が十八の機会に説いた説法を集大成した膨大なものです。
日本で一般的に用いられる金剛界曼荼羅は、成身会(じょうじんえ)・三昧耶会(さまやえ)・微細会(みさいえ)・供養会(くようえ)・四印会(しいんえ)・一印会(いちいんえ)・理趣会(りしゅえ)・降三世会(ごうざんぜえ)・降三世三昧耶会(ごうざんぜさんまやえ)の九会(くえ)から成ります。
金剛界曼荼羅は、九つの構成で出来ているのではなく、九つの曼荼羅の集合体と言えます。
全体を見ると、金剛界曼荼羅は二つの流れを示しています。
一つは中央の①成身会から始まり、②三昧耶会から右回りに進み最後に右下の⑨降三世三昧耶会に向かう『向下門(こうげもん)』と、逆に⑨降三世三昧耶会から左回りに①成身会に向かう『向上門(こうじょうもん)』です。
向下門は仏による救済の道程を示したもので、向上門は密教修行によって日常的な俗世界から仏に象徴される聖なる世界への展開を説明したものと言われます。
胎蔵曼荼羅とは違い、金剛界曼荼羅では同じ仏たちが、その流れの中で何度も姿や形を変えて登場しています。
胎蔵曼荼羅について
胎蔵界曼荼羅は、中心の大日如来の周囲に、様々な働きをもつ405尊の仏を一定の秩序にしたがって配置しています。
曼荼羅は十二の院(区画)に分かれており、その中心に位置するのが「中台(ちゅうだい)八葉院(はちよういん)」です。
八枚の花弁をもつ蓮の花の中央に大日如来が位置し、その周囲には四体の如来と四体の菩薩が表されています。
※上から右回りに、宝幢如来(ほうどうにょらい)・普賢菩薩(ふげんぼさつ)・開敷華王如来(かいふけおうにょらい)・文殊菩薩(もんじゅぼさつ)・無量寿如来(むりょうじゅにょらい)・観音菩薩(かんのんぼさつ)・天鼓雷音如来(てんくらいおんにょらい)・弥勒菩薩(みろくぼさつ))
中台八葉院の周囲には、遍知院(へんちいん)・持明院(じみょういん)・観音院(かんのんいん)・金剛手院(こんごうしゅいん)・釈迦院(しゃかいん)・文殊院(もんじゅいん)・虚空蔵院(こくうぞういん)・蘇悉地院(そしつじいん)・地蔵院(じぞういん)・除蓋障院(じょがいしょういん)が、それぞれ同心円状にめぐり、これらすべてを囲む外周に外金剛部院(げこんごうぶいん)が位置します。
これは、内側から外側へ向かう動きを暗示し、大日如来の智慧が現実世界において実践される様を表現していると言われます。
2016.07.15
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