Homma Museum of Art芸術・自然・歴史の融合/公益財団法人 本間美術館
コラム
4,760人が針を通した「酒田浄徳寺縫曼荼羅」
学芸員:阿部 誠司
企画展「祈りの芸術」でご紹介している県指定文化財≪刺繍当麻曼荼羅(ししゅうたいままんだら)≫(貞享2年・1685/浄徳寺蔵)は、「酒田浄徳寺縫曼荼羅」の名称で伝わるもので、奈良・当麻寺の国宝≪綴織当麻曼荼羅≫と同じ様式を表しています。
軸装寸法:410.0×259.5㎝ 本図寸法:204.0×178.0㎝
江戸時代前期、浄徳寺第七世・栴誉上人(せんよしょうにん) 問察和尚が綴織当麻曼荼羅を拝し、このような曼荼羅を東北にもあれば…と強く願います。
天和3年(1683)を発願とし、奈良・当麻寺の曼荼羅を絵師に写させ、その尊図を持って諸国を渡り「一針三針ト道心ヲ勧」と結縁募財をし、京都の縫師・湯浅吉兵衛の手で曼荼羅は仕上がりました。
完成した曼荼羅を表具したのは、栴誉上人の志を継いだ浄徳寺第八世・随誉信也難過和尚で、貞享2年8月25日、江戸で表具されています。(現在の表装は昭和62年に修復したもの)
栴誉上人の発願から3年を費やし、延べ4,760人が針を通し結縁(成仏のため仏法と縁を結ぶ)し完成した、稀に見る記念すべき曼荼羅なのです。曼荼羅の表具の左右に刺繍された4,760人の結縁者の名前・戒名を見ると、発願者・結縁者・製作者の祈り、想いの結晶であることがひしひしと伝わってきます。
では、曼荼羅にはどのような世界が表されているのか見てみましょう。
当麻曼荼羅は浄土三曼荼羅の一つで、「観無量寿経」の所説を表し、中国における浄土教の大成者・善導大師(ぜんどうだいし)の説に基づいて構成されています。
壮麗な宝閣を背景に、中心には阿弥陀如来(あみだにょらい)、向かって右に観音菩薩(かんのんぼさつ)、左に勢至菩薩(せいしぼさつ)の阿弥陀三尊を置きます。
蓮池から往生者が生まれている様子と、池の畔で阿弥陀如来と往生者の父子相迎(ふしそうごう)の様が描かれ、空中には散華や各種の楽器と共に飛天が舞い、極楽浄土が表されています。
また、図の三方をとりまいてフイルムのコマのように区切られた中に、阿弥陀如来が死者を極楽へ迎える来迎図や、極楽を観想する手段などが描かれ、死後往生する極楽の姿を目に訴えて説明するために工夫されています。
原本となった綴織当麻曼荼羅の劣化が著しくなった今、浄徳寺の刺繍当麻曼荼羅は信仰史において貴重な存在となりました。また、刺繍の技術も見事で、芸術性、文化財の見地からも高い評価のある曼荼羅です。
現在では、山形県の指定文化財のみならず、浄土宗の宝「宗宝」に指定されています。
2016.07.09
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